外来生物 Exotic Species |
佐渡島に定着したホンドテン(本間勉氏撮影 もともと、テンは佐渡島には生息しなかった「国内外来種」である。新潟県農林部が、野鼠・野兎駆除のために昭和34年(1959)に7頭導入したのを皮切りに、昭和38年まで、計21頭を放したものである。新天地を得たテンは増え続け、本土側より、生息密度が高くなっている。 |
特定外来生物 キク科のオオハンゴンソウ |
北米に侵入して問題となっている マメコガネ、ワカサギ、ハクレン(中国大陸産) |
信濃川河川敷に広がったアレチウリ |
急速に増加中の特定外来生物 コクチバス |
中国・朝鮮半島〜アムール川原産のカムルチー 外来生物法上の「要注意外来生物」指定はなくなった |
左)絶滅が危惧される在来のシナイモツゴ 右)最大の脅威の一つ国内外来種のモツゴ |
タイリクバラタナゴ 左)オス 右)メス ニホンバラタナゴへの遺伝子汚染が問題となっている |
新潟市江南区で確認hされたセアカゴケグモ(新潟市提供) |
◆外来生物とは |
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外来生物(外来種)とは、本来その地域や水域に生息しなかった生きもので、人為的に持ち込まれた種類をさす。生きものには国境線がないため、厳密には国内原産であっても、本来生息していなかった種は(国内)外来種である。 |
【国内外来種の例】 ・本土から佐渡島に持ち込まれたテンやキツネ ・本州から北海道に持ち込まれたカブトムシ ・湖産アユやヘラブナ(ゲンゴロウブナ)の放流に紛れ込んで分布を広げたオイカワ・ ビワヒガイ・タモロコなどの琵琶湖原産種 |
※外来種の中でも、定着に成功した種を帰化種と呼ぶことがある。 |
◆問題の外来生物は、ごく限られた「エリート」 |
自生地の外に持ち出された動植物のほとんどは、生存、定着に失敗してしまう。環境の変化に耐えきれなかったり、すでに以前から生息していた在来種との競争に負けるからである。さらに、定着に成功したと思っても少数の個体からスタートした集団では、近親交雑がおこってしまい、年々生活力が低下して、やがて衰退に向かってしまう場合が多い(遺伝的劣化)。 しかし、ごく一部の種類は、これらの問題を克服して、定着に成功することがある。 |
●在来の生きものが利用していない空間や食物などを利用 帰化植物は、道路わきや民家の庭先、公園や農耕地、海岸や河原などの、在来植物が少ない(生物多様性が低い)空間に定着しやすい。 とこがオオハンゴンソウはいきなりススキやヨシなどの高茎草地に侵入し、これらを圧倒しながら増殖する競争力を備えている。 |
●生活力の強い種や繁殖力旺盛な種が、在来種との競争に勝つ 問題になっている外来種は、ほとんどが生活力旺盛な種である。 |
●天敵が存在せず、餌も豊富な新天地で急激に増殖するケース 原産地では目立たない種類が、新しい環境で問題をおこす場合がある。我が国原産のワカサギやマメコガネ、クズ、ワカメなどが、外国で爆発的に増殖しているケースがある。 中国大陸原産のハクレンやソウギョがアメリカで大繁殖し、「アジアンカープ」として我が国におけるブラックバスと同じような脅威となっている。 |
●自家受粉でも増える植物 普通の植物は他の株からの花粉で種子ができるが、セイヨウタンポポは、自家受粉で1株からでも種子が作られ、子孫を残すことが可能である。 |
左)セイヨウタンポポ 右)エゾタンポポ |
◆外来種の何が問題か |
1.競合 在来種と住み場所や食物(動物)、光や栄養塩類(植物)などをめぐって競争がおこり、移入種の生活力が強ければ、在来種の暮らしが圧迫される。 北米原産のアレチウリは、河川敷などに侵入し、ススキやヤナギなどに覆いかぶさるように繁茂する。同じく北米原産のセイタカアワダチソウは、びっしりと根を張って栄養塩や水を確保し、他の植物の成長を阻害する物質も出す。 アジア大陸原産のタイリクバラタナゴは、ヤリタナゴなどの在来タナゴ類と、餌や産卵に必要な二枚貝を奪い合い、その減少原因の一つとなっている。 |
2.捕食 自然界は、食う−食われるという食物連鎖で成り立っている。長い歴史の中で、捕食者は餌となる生きものを食い尽くしてしまうことはないというルールの下で共存してきた。 しかし、外来生物の中には、飛び抜けて捕食能力の高いものがある。例えば北米原産サンフィッシュ科魚類のオオクチバス、コクチバスは極めて高い捕食能力をもった魚種で、他の魚種や水生動物に大きな被害を及ぼしている。原産地では、サンフィッシュ科魚類の上位にパイク類やガーパイク類、アリゲーターなどの強力な捕食者が存在し、食われる側の動物側も何らかの防御策を発達させているからである。 |
なお、アジア大陸原産のカムルチー(ライギョ)も導入当初は魚食性が心配されたが、北米原産のブラックバス類に比べれば、在来生態系に与える影響ははるかに少なかった。「要注意外来生物」指定は解消され、「生態系被害防止外来種リスト」には掲載されていない。 我が国の淡水魚類の主流は東アジアの大陸部で進化し、陸続きの時代に日本列島に到達したと考えられている。カムルチーの系統は、ここで我が国の淡水魚類の系統と共存した歴史をもっているため、我が国の淡水魚類相に壊滅的な打撃を与えることはなく、小型の在来魚とも共存できると考えられている。 |
3.交雑 近縁な種の間で、交雑がおこり、遺伝的に違った種に置き換わったり、在来の遺伝子集団が消滅してしまうことがある。 琵琶湖水系原産のモツゴの雄は、在来のシナイモツゴの雌との間で雑種を形成する。しかし雑種には繁殖力がないため、やがてシナイモツゴは姿を消してしまうという。 琵琶湖〜九州北西部では、タイリクバラタナゴが在来のニッポンバラタナゴと交雑して、遺伝子を消滅させる事態もおきている。 メダカやゲンジボタルなどでは、地域ごとに固有の遺伝子集団が存在することが明らかになっているが、人為的な放流によって交雑がおきてしまっているところがある。 |
左上)在来のキタノメダカ 右上)ミナミメダカ 飼育品種:左下)ヒメダカ 右下)ヒカリメダカ |
4.人への健康被害、寄生生物や病原体のもちこみ、 外来の動植物の中には、人体に深刻な健康被害をもたらす種類がある。2015年にはオーストラリア原産の毒グモ、セアカゴケグモが新潟市内や柏崎市内で相次いで発見されている。南米原産のヒアリは、太平洋側の港湾地帯で見つかっており、県内でも警戒が呼びかけられている。、 野生の動植物には、ほとんど全て何らかの寄生生物が存在しており、外来生物によってその地域には存在しなかった寄生生物が持ち込まれることがある。 近年問題となった、コイヘルペスウィールス(KHV)は、1997年にイスラエルで始めて発見されたコイ特有の病原体で、感染魚は鰓がただれて死亡する。アジアには2002年に入り込み、2003年には岡山県や霞ヶ浦での発病が確認された。霞ヶ浦では養殖生け簀のコイが大量に死亡し、翌年全業者が廃業に追い込まれるという事態に追い込まれた。 2004年には新潟県内でも発生が確認され、現在県の指示により、コイの持ち出し、持ち込み等の移動が禁止されている。 我が国には、毎年膨大な数のペットが、海外から輸入されているが、その中には、人へも感染する病原体を持ち込む危険性をもつものがある。例えば、サルはエボラ出血熱を、プレーリードッグがペスト、オウムが西ナイル熱のウイルスを運ぶ危険があるという。 |
長い歴史を経てきた地域固有の生態系が、本来そこに生息していなかった外来生物が持ち込まれることによって均衡が崩れ、在来生物が絶滅に追い込まれることがある。外来種問題は、環境破壊と並んで、地球生態系にとって非常に大きな脅威である。 誤解してならないことは、「全ての外来生物が問題であるわけではない」ということである。人類の歴史は、農作物や家畜などの移入の歴史と言っても過言ではない。人間に役立つ有用な動植物がなければ、人間の暮らしは成り立たないことは疑いない事実である。 しかしながら、一部の外来生物は、在来生態系に大きな重大な悪影響をもたらすだけでなく、人間社会にとっても大きな脅威となっている。一度人間の手を離れた外来生物が在来生態系にどのような影響を及ぼすのかは予測が困難で、過去に学者や専門機関によって持ち込まれた外来生物が抑制不可能となっている例は枚挙にいとまがない。 一部の「生物学者」や「専門家」が、外来生物の抑制活動に冷や水を浴びせたり、「ブラックバスも百年もすれば日本の自然に馴染む」等の問題外の情報を発信するジャーナリストがいるのは極めて問題である。さらに、NHKに代表されるマスコミや動物写真家がまきおこした「ネコノミクス」などのペットブームは、外来・家畜・園芸生物によって大きな被害に遭っている在来の生きものたちに目を向けることもなく、野生や原産地の生きものの採集、盗掘を加速させている現実がある。まさに「外来種問題は、人間側の社会問題」である。 2005年6月に「◆外来生物法」が施行され、特に問題の大きい外来生物を「特定外来生物」に指定し、規制が開始されたが、実効性に疑問が持たれていた。2015年3月、環境省および農水省は外来種対策の一層の推進を図るため、「●生態系被害防止外来種リスト」 を公表した。 |
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キーワード | 国内外来種 | 定着成功の条件 | 競合 | 捕食 | 交雑 | 健康被害・寄生虫 |